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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)5428号 判決

原告 巽兼太郎

被告 国

訴訟代理人 星智孝 外一名

理由

別紙目録記載の家屋が原告の実兄亡巽浅吉の所有であつたが、訴外巽千賀雄を経て原告がこれを相続したこと、然るに所轄登記官吏は原告主張の日、訴外巽ソノ、同巽綾子の申請を受理し右両人が同物件を共同相続したものとして保存登記を完了した結果実体上の権利に符合しない違法登記が為されたこと及び右ソノが右綾子の持分を譲受けたので同物件は登記簿上右ソノの単独所有となつていることは当事者間に争がない。原告は右違法登記により被告に所有権を侵害され、その結果取得し得べかりし賃料相当額の損害を蒙つたと主張するのであるが、我が民法の建前では登記は単なる対抗要件にすぎないのであつて、真実所有権の移転がない場合にそれに反する登記がなされても、それは無効であり、真正な所有者は之により、その所有権を喪失するものではなく、登記簿上の所有者に対しては勿論、それより所有権の移転を受けた第三者に対してもこれが是正或は取戻を求めうるのである。

従つて仮に原告主張の如く本件家屋につき訴外亡浅吉と訴外瀬島等間に賃貸借契約があつたとすれば、右賃貸人の地位は法律上当然原告に移転しているのであるから、原告は右瀬島等賃借人に対し賃料請求権を有することが明らかである。然らばただ違法登記が為されたということだけで被告国は原告に対し損害を蒙らしめたということは出来ない、尤も賃借人において既に登記簿上の名義人に賃料支払済であり且つその支払を原告に対抗し得るものとしても、猶原告は右賃料を収受した登記簿上の名義人に対し不当利得返還請求権を有するものというべきである。従つていずれにするも本件違法登記により原告は賃料相当の損害を蒙つているものということはできない。よつて被告に対する原告の請求は爾余の判断をまつまでもなく、この点に於て理由がないから、棄却するのを相当と認め、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畑健次)

目録〈省略〉

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